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第1回「攻殻機動隊 REALIZE PROJECTはなぜ実現した?現実とSFを繋ぐコンテンツIPの力」の振り返り・前編(山田)

攻殻機動隊の話を中心にした「技術とSF、技術とエンタメの関係性について」

Smips・エンタメと知財分科会第1回「攻殻機動隊 REALIZE PROJECTはなぜ実現した?現実とSFを繋ぐコンテンツIPの力」を4/16に開催しました。自分の復習を兼ねて思うところを綴ります。(客観的な内容の要約ではなく、僕が個人的に学びになったところのまとめになります)

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振り返りトピックまとめ

とても盛りだくさんの内容だったので複数記事に分けてまとめます。1つ目の話はある意味期待したとおりの内容でしたが、個人的には(エンタメの仕事に関わり始めたばかりということもあり)2つ目の話がとても参考になりました。まあ、技術系の人もコンテンツ系の人も満足な内容だったのではないかなと思います。

  • 攻殻機動隊の話を中心にした「技術とSF、技術とエンタメの関係性について」
  • 広告代理店時代の事例を中心に「コンテンツIPを活用したビジネスのポイントについて」

で、今回の記事は1つ目の話です。

SFエンタメ作品は技術を説明する共通言語になる

これ、攻殻機動隊を再現したかのような「光学迷彩」の開発者・稲見昌彦先生がたびたびおっしゃっている言葉です。

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身体の後ろが透けているように見える
参照:​稲見研究室プロフィールページ

稲見先生の過去のインタビューをいくつか引用すると、

「SF作品は、頭の中の考えを研究室内外の相手に分かりやすく伝えるためのツールにもなります」と言います。 例えば「ガンダムでいうと○○みたいな感じ」という言い方をすれば、詳しい背景の説明をせずにメッセージを伝えられます。そして、日本生まれのフィクションはいま、研究者にインスピレーションを与えたり、一般の人に研究成果を説明したりするツールとしてどんどん浸透しています。

以前はスターウォーズやスタートレックなどハリウッド映画が目立ちましたが、最近では、アジアなら「ドラえもん」、アメリカやフランスでは「攻殻機動隊」のテクノロジーが共通言語として通用するそうです。
参考:光学迷彩を実現、稲見教授「攻殻機動隊」が教養本だった研究室

実は研究者の間では、技術を説明するためのメタファーとして攻殻を使わせてもらっています。要は「義体で…」とか言ったりすると、通じるんですよね。これは日本の研究者だけではなくて、海外の研究者にも通じたりします。理屈立てて何か現象を説明する時は、プロの研究者としては論文を書くとかやらなくてはいけないですが、自分がやりたい、やろうとしていることを簡単に伝えるには作品の中のイメージを利用させてもらった方が研究者同士でも早く伝わるというのはありますね。それは「表現の力」と申しましょうか、「映像作品化されているものの力」と申しましょうか、もう共通言語になっていますね。

参考:攻殻機動隊 REALIZE PROJECT・特別対談「稲見昌彦×I.G 石川光久が攻殻機動隊を語る」

研究者・技術者同士だけでなく、ビジネスプロモーションなどにも使える共通言語になっていると言えそうですね。稲見先生いわく、「アジアではドラえもん、アメリカやフランスでは攻殻機動隊が共通言語になる」とのこと。

攻殻機動隊の世界を分析・整理した「攻殻グラフ」の存在

参加者の方の反応が意外と大きかったのが、攻殻グラフでした。研究者や技術者あるいは一般の方も含め多くの人はタチコマなど技術の現実化の方に興味を示す気がするのですが、技術者と知財担当者の技術に対する見方の違いみたいなものが垣間見えた感じで面白かったです。

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セマンティックネットワークと呼ばれる知識表現を使用し、攻殻機動隊の作品の構成要素とその関係を円(ノード)と線(リンク)によるグラフ構造で可視化したものです。これにより攻殻機動隊の世界が初めて分析され、整理された単語は辞書として、セマンティックネットワークは世界の情報を探索するためのアルゴリズムへと今後発展させることが可能となります。
参照:攻殻機動隊 REALIZE PROJECT・攻殻グラフ

メーカーの知財部など、技術系の知財に関わっている方は「パテントマップ」に似た感じを受けると思うのですが、パテントマップが過去の技術を整理するのに対し、攻殻グラフは過去・現在・未来まで整理されたマップになっているのが新鮮というか、ある意味うらやましい(自分の業界・技術分野にも欲しい)とおっしゃっていました。JSTがロードマップとか描いてたりしますが、あれはあれで荒すぎるという感じなんでしょうか(実は詳しく見たこと無いので分からない)

技術とSFエンタメの相互作用

稲見先生が対談の中で面白いことを言っているのでさらに引用。

REALIZE PROJECTも2つ方向性があると思ってまして、一つは「今の技術ではまだ実現できない攻殻の技術を実現していきましょう」というもの。もう一つは逆に、「攻殻の世界の中で描かれてなかったとしても、もしかしたらその世界観の中でこういうのがあると『確かにこれは攻殻的だ』となる、攻殻の世界を広げるもの」の2つです。寄り添うのではなくて、士郎さんに近づいていくものと、お互いに影響を及ぼすような。それが本当の未来になっていく。もしかしたら次の攻殻に出てくるかもしれない、そういうものができると面白いと思います。

参考:攻殻機動隊 REALIZE PROJECT・特別対談「稲見昌彦×I.G 石川光久が攻殻機動隊を語る」

最初に述べているのは「攻殻グラフに描かれた技術を生み出すこと」、次に述べているのは「攻殻グラフを更新するような技術を生み出すこと」、そして、実現した技術が原作である攻殻機動隊自体に影響を与えるようになっていくと面白いということです。

現実の技術とSFエンタメ、研究者・技術者とコンテンツクリエイターの理想的な影響の与え合いだなと思います。

研究会の振り返りと言いつつ、公開記事の引用が続いたので、そろそろ研究会で話された内容に触れていきます。

事業性も重視する「攻殻ハッカソン」

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大会は3都市3テーマでわかれており、東京のテーマは「義体・ロボット・ハードウエア」、神戸のテーマは「電脳・AI・ソフトウエア・ネットワーク」、福岡は「スマートシティ」。それぞれテーマは3つのプログラムにわかれており、個人を対象にしたハッカソン「Hack the REALIZE」、チームや団体での応募を受け付けるコンテスト「Contest for the REALIZE」、そして起業家むけの「Pitch to the REALIZE」(東京大会のみ)があります。

参考:「攻殻の世界をリアライズせよ!」攻殻機動隊REALIZE PROJECT 東京・神戸・福岡大会レポート

攻殻機動隊の世界に出てくる技術を現実化しよう!というお題はわかりやすいのですが、研究会で伺った下記の話題が非常に興味深かったです。

  • 参加者のアイデアを保護するため、ハッカソンやコンテストの審査を公開ではなく、参加者+審査員のみの密室で行った
  • 審査会前には、審査対象の技術やアイデアに関する先行技術を事務局が調査してその情報も審査対象とした
  • 上記調査で特許性があるかを調べるとともに、そのアイデアを実用化するにあたって第三者の特許を侵害する可能性がある場合には、その出願人や特許権者をパートナー候補として見るようにしていた

1点目はプロジェクト全体のPRを考えるとかなり思い切った方向に舵を切ったなと思うのですが、参加者のアイデア保護、そして長い目で見た際のプロジェクト継続の資金源になりうるライセンス収入(このあたりは次回記事で書きます)などを考慮した結果かなと思います。実際、既に2件の特許出願を済ませているとのことでした。

2,3点目は(僕の勉強不足ならあれですが)ここまで手厚くやってるハッカソンや一昔前のビジコンってほぼ無いような気がします。これもプロジェクト存続費用を捻出するライセンス収入の観点ももちろんありますが、攻殻機動隊の世界を本気でリアライズするぞという意気込みが見えるように思います。個人的には、ここが本気度を感じたところです。

さらに補足すると、大企業などが持っているが活用されていない、いわゆる「休眠特許」の中に、攻殻機動隊の世界を実現しうる技術が無いかも調べたり、実際に交渉も行ったりしたそうです(技術的な内容以外の観点も含めて、なかなか今回のプロジェクトには使いづらいという感触のようですが)

こんな感じで、技術とSFエンタメの関係性について自分が感じたことをまとめてみました。次回記事では、エンタメ作品から生まれるコンテンツIPでどうビジネスを作っていくかの話をまとめる予定です。本記事後半で繰り返し述べている「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT」の継続的な活動に向けた取り組みも垣間見えてくるのではないかなと思います。

それでは、次回の記事も読んでいただければ幸いです。